エピソード3 名前は馬場浩太郎です。
あの暑い夏が終わり早秋の涼しさを感じているときでした。いつものように朝の掃除をしているときでした。何気ない一言に振り向きます。この時から私の不思議な出来事が、また、目の前ではじまっていくのです。
飛ぶおじさん
久々の休日の朝を迎え、自宅の玄関前を掃除しているときのことです。
歩道側から、
“ちょっと、すみません”
との声が聞こえてきたのです。
振り向くと、そこには、真っ赤なポンチョのようなものをまとい、頭には真っ赤な帽子をかぶり、顔には長くて真っ白なひげをはやした小太りの男性が立っていました。季節的にはだいぶ早かったのですが、まさしくサンタクロースです。
どこかの店のPRでもしにきたのかな。
と思いながら玄関の階段を降りていきました。そして目と目があった瞬間でした。いきなりしゃがみはじめたとおもったら、体はみるみるうちに小さくなっていき顔から下が30センチぐらいになっていました。
すると今度は、その体が反動をつけるかのように空に向かって飛んでいったのです。そのスピードは風船が舞い上がっていく程度で、あれよあれよという間に空の彼方へと消えていったのです。
特に怖いという恐怖めいたものを感じませんでした。なぜなら、数か月前、京都のホテルでほんとに怖くて震えるような体験をしていたからです。
空からの贈り物
「今のはいったい何だったんだ」
このような思いを感じながら玄関の掃除のつづきをはじめていると。空から何やらひらひらと白いものが雪かのように舞い降りてきました。そして中庭の方へと歩いていくとそこはもう真っ白い世界に変わっていたのです。
それほど多くの数が舞い降りてきているわけではないのですが、地面に落ちると同時に融けながら広がっていくような感じで消えていくのです。地面に落ちる前に手で取ろうとしたのですが、磁石の同極同士が反発するかのように不思議と避けて落ちていくのです。
何度か試しましたが無理でした。
この謎めいた雪が舞い降りた時間は30秒ぐらいだったと思います。このあと、すぐに融けていき、中庭はこれといった変化もなく元の姿になっていました。
これを降らしたのは、先ほどのサンタのおじさんだとは思うのですが、何のためなのかさっぱり見当もつきません。
そこで霊感に優れている妻に尋ねてみると、このような内容を話してくれたのです。
「先ほどから、私もこの光景を拝見しておりました。おそらく甘露(かんろ)の種類かと思われます。舞い降りてきたものは雪のようにまん丸ではなく花びらのような形をしていました。白い菊をこのような形で地上によこしたのではないでしょうか」
「菊というのは魔を祓う作用があると言われていますので、ここの土地に結界を張ったのだと思います。あの方が何のために張ったのかは存じません。それに今まで見せてくれた不思議な現象は、あなたと私にだけ見せてくれたものだと思いますよ」
犬と穴
そしてここから一週間が経過いたしました。そして今度はこのようなことが起こります。
朝6時ごろでした。たまにはテラスで淹れたてのコーヒーでもと思い準備に取り掛かった時でした。テーブルの脇に白い小型犬が横になっていたのです。
どこの犬だろうと思いながら近づいていくと、気が付いたのかこちらを振り向きながら立ち上がり歩き出します。
すると、そこには直径10センチほどの小さな穴が開いていました。まさか、この穴から犬が出てきたのだろうか。と思ったのですがあまりにも小さく浅すぎます。
どこから入ってきたのだろう。と考えながら朝カフェを済ませ、その穴を埋めました。そして辺りを見回すと、もう犬の姿はどこにもありません。
ここから3日目の朝のことです。また、あの時の犬がまた同じ姿でテーブルの脇に横になっていました。近づくと前回と同様、こちらを振り向きながら立ち上がり歩き出します。すると、また同じ穴です。形も深さも同じです。
この穴を埋めるとまた犬が消えるのか。と思いながら穴を埋めると、やはり犬の姿はもう消えていました。
また、あのおじさんの仕業なのだろうか。とか、色々と考えてみたのですが思い当たる節もまったくありませんでした。
妻が実家から帰ってくるのは2日後でしたから、特に大きな問題になりそうな出来事でもなかったので、その時まで連絡をせずに待つことにしたのです。
過去の思い
つい先日の出来事を妻に語りかけると、こう話し出します。
「その犬は、以前のオーナーがここで飼っていたような気配を感じません。もっと過去かと思われます。犬が横になっていた場所がおそらくお墓だったと思いますのでそこをさらに掘ってください。何かが出てくるはずです」
その通り掘ってみると、出てきたのは犬の骨でした。きっとあの小型犬のものだと思いました。なんでこのような形で教えてくれたのか。妻も分からずにいました。
あのおじさんと犬との関係が知りたくなり、この地域に古くから住む近所の方々に尋ねてみてたのですが手がかりらしきことも聞くことができませんでした。そうであれば、とにかく、しかるべきところで供養してあげることにしました。
ここから2日目のことです。この日は朝から雨が降っていて午後には多少の小降りと変わり霧がうっすらとかかりはじめた時です。
妻が中庭を指差すので、その方向を見ると、あの犬の穴のところでした。そこを見ていると霧のようなものが徐々に、あの犬の形になっていくのです。
ここで妻がこう話し出します。
「とっても喜んでいらっしゃいますよ。あの犬の骨の中に一部人骨が含まれていた可能性もありますよ」
『さらに深く掘ったたら・・・』
「さ~ どうでしょうね~」
いったい妻は、どこまで知っているのでしょう。多くを語らず、あのおじさんと犬の関係はここで終わりを告げることになります。
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