エピソード4
「ようやく終わった」
彼女はこう口走っていた。
さようなら
1998年7月10日、和歌山県田辺市で生まれる。地元の高校を卒業後、都内の某ホテルへ就職する。与えられたセクションは新幹線内のワゴンサービスのパーサーだった。
この職業について5年の月日がながれ後輩にも指導できる立場となり、役職も主任となって毎日多忙を極めていた。そんな頃だった。父からこのような知らせが届いたのだ。
「母ちゃんが倒れた」
3年前に父が脳梗塞で倒れ母が看病の日々を送っていたのは知っていたが、今度は母が過労から倒れたとは・・・ 田辺に帰らなければならない。
ここから7年、両親の介護生活の日々がつづき母が47歳の若さで肺がんで他界してしまう。常日頃から覚悟していただけに悲しむという思いよりも、向こうの世界に帰っていったんだ。この程度ぐらいにしか思えなかった。
そして、ここから私の第二章がはじまっていくのです。
体の異変
はじめて両親の介護にたずさわったときは特に不安というものはなく、一人娘としてこれはいつしかやってくる宿命なんだと思っていました。ですから職場に母親の連絡をもらったときには、特に慌てふためかず冷静に受けとめていました。
そして親のお世話をしながら介護福祉士の国家資格でも取ろうとも思っていたのです。
そして、この仕事にたずさわる毎日がつづいていきます。慣れない仕事の毎日でしたが、特に苦にするほどではありませんでした。
そんな私が体に変調をきたすようになっていたのです。いつ頃からだったのか。正直覚えていません。最初にやってきたのは両足でした。
歩くたびに重さを感じるようになっていたのです。日頃から立ち仕事が多いものですから、この影響からきているのだろう。ぐらいにしか思っていなかったのです。
ところが、最近になって歩く重さが倍ぐらいに達してきているような感じがしていました。足にウエイトを付けてるような感じではなく、床のほうから何かが引っ張っているような感じがするのです。
病院で診察を受けたのですが、どこにも異常のない普通の足でした。
医師から精神的な疲労の蓄積との診断をいただきましたので、時間を見付けては横になっていました。そんな日々を過ごしているときです。やけに白髪が増えてきているのに気付きます。
そして肌の乾燥と極度のだるさもありました。
あなたは誰なの
「これも日頃の疲労の影響からきているのだろう」
そう思いながら過ごしてきたのですが、いつしかイライラする度合いも増してきているのがわかりました。これも日頃のストレスの蓄積からだろうと思っていたときです。
突然、今までと違う感覚が襲ってきたかと思うと、目の前にいた父をめがけ暴言をはきながら殴りかかろうとしていたのです。
父の顔が恐怖に怯えているのがわかりました。このとき私はとっさにこの行為を止めさせようとしたのですが、別の力のほうがあまりにも強く、強打をやや弱めるだけにすぎませんでした。
このとき私の体の中に誰かが憑依しているのを知るのです。
相談者
いったい誰が何のためにこの苦しみを与えるのだろう。いつもこのような状態がつづいていましたので、なかなか寝付くことができません。
このとき選んだのがなぜか日本酒でした。それも熱かんの梅割りです。
それも迷わずこの組み合わせにしていたのです。酒はあまり強いほうではありませんでしたので、一合飲むあたりで心地よい眠りを誘ってくれていました。
ところが一週間後ぐらいには二合から三合までいくようになっていたのです。ところが、次の日は二日酔いで体がもちません。このままでは私までもが倒れ込んでしまう。
そう思いながら、近所に住んでいる叔母に相談をもちこみ、今までの事をすべて話してみようとしました。ところが、そう思いながら話を進めていくのですが、ある事だけはどうしても言いだせずにいたのです。
そしてこの場を後にしていました。
帰宅後、この内容も含めて相談にのってくれる人物のことを考え、ホテルに勤めていたときの上司・木村朋美さん(仮名)のことを思いだします。
恥辱
そしてこれまでの経緯に加えこう話しだしていきます。
「ここからが、叔母に対してどうしても言い出せなかった内容になります。」
「実は誰かが私の体を触りにやってくるのです。最初は掛け布団の中にスーッと風のようなものが入ってきたような感じを覚えました。何が入ってきたの。と思ったときです。」
「唇をうばわれ愛撫がはじまっていったのです。今まで性交経験のない私にとって怖さのあまり小刻みに震えていました。それは、あまりにもリアルすぎて誰かが夜這いにでも来たのかな。と勘違いするほどでした。
怖さに目を開けることもできず、ここから30分ほど経過したでしょうか。ふっと体が抱擁から解放された感じがあり、ここで現実にもどっていました。そして周りを見渡すと誰もいません。」
「ここから1か月ほどたったあたりです。またやってきました。この時は、この目で見てやろうと思い目を開けようとしたのですが、何故かまぶたが開きません。両手も動かないのです。というよりも霊媒のようなものがコントロールしているようでした。
仰向けからうつ伏せにしたり脚を開いたり閉じたり。やりたい放題です。」
「そして次にやってきたのは2週間後ぐらいでした。いつものようにはじまり、そして今回は体の中に何かが入ってきたのが分かりました。」
「この日が終わり4-5日が経ったころでしょうか。下腹部に違和感を感じましたので病院で検査を受けてみると性病にかかっていたのです。これには本当に驚きました。見えない謎の相手ですよ。」
「治療をしたとしても病は改善されるでしょうけど、見えない敵はいつまたやって来るかわかりません。逃げるに逃げられない地獄のようなものです。ですから私は、この敵と真っ向から戦うことにしました」
味方と敵
ここまでの話を聞いた佐々木は彼女を連れて武蔵野市を訪れます。そして、今までの経緯をすべてカウンセラーに話したところ、こう返ってきました。
「ひとりの人間の肉体の中には、複数の人間が存在しています。ひとつの肉体だから一人の人間だとは限りません。良い心の人もいれば悪い心の人もおります。その中で誰が中心となるかで、その人の幸不幸が決められるのです。」
「あなたの場合は、まだ制御してくれる人物が心の中に存在していますので、望みは60パーセント以上あります。まずここで日頃の行動を教えてください。どこで悪霊が憑依したかを捜してみましょう。」
「(相談者)ほとんど家の中の仕事をしていますので、外に出るとすれば4日に一度スーパーへ買物に行くぐらいです。不定期ですが2か月に一度ぐらいは役所に出掛けています。そう言えば半年ほど前に友達と気晴らしに夜の街へ食事に出掛けたことがあります」
「(カウンセラー)おそらく、夜の街で拾ってきた可能性が高いですね。今、あなたの右後方にそれらしき霊が除霊されるまいと身構えています。そして、あなたを守ろうとしている男性の補助霊もおります。
この方ですが母方の高祖父(おじいちゃんの父)になります。」
「生前は梅農家を営んでおりましたので大好きな日本酒を梅で割って飲んでいました。悪霊がお父さんに殴りかかろうとした時にサポートしてくれたのもこの方です。では、この方のお力もお借りしながら除霊していきます。」
最後の敵
15分ぐらいで除霊は終わり悪霊は退散していきました。
この後、カウンセラーがこう言いだします。
「ここ数年、お墓参りをしておりませんね」
「(相談者)母が亡くなってから一度も出掛けておりません。」
「(カウンセラー)明日にでも出掛け墓石の外側と内側も丁寧に掃除してください。現在の墓の内容をその場から連絡をください」
そして翌日、墓地に行き納骨室の石蓋を開けてみると、木の根が骨壺を抱いているのが分かったのです。その場でカウンセラーに連絡を入れ切断の指示に従い切り落としました。すると不思議なことにこの瞬間、抱かれているような圧迫感から解放されたのです。
これですべての悪霊が退散していきました。
そして、この日の夜は今までにないほどの爽快感を味わい、こう言います。
「お母さん守ってくれてありがとう。ようやく終わったよ。おやすみなさい。」
この日は久々にぐっすり熟睡できたようです。
彼女は朝起きると、まず神仏に手を合わせる習慣が身に付き、母親の月命日にお墓参りをしているとのことです。高祖父の亡くなった9月10日には日本酒の梅割りを仏前に差し上げているようです。
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